大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 平成7年(オ)863号 判決 1997年12月18日

上告人

興人株式会社破産管財人

山田俊介

被上告人

株式会社ヴェンティー・ウーノ

右代表者代表取締役

正木純子

右訴訟代理人弁護士

梶谷哲夫

主文

原判決を破棄する。

本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

理由

上告人の上告理由について

一  原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。

1  興人株式会社(以下「破産会社」という。)は、紳士服等の卸売を業とする会社であり、平成二年七月二七日ころ、被上告人からスーツ一〇六着を一着一二万五〇〇〇円、代金支払期日同年九月一〇日の約定で買い受け、うち五〇着(以下「本件物件」という。)を株式会社デュオに転売して引き渡し、同会社から売買代金の支払のために振り出された約束手形二通(額面合計五五〇万円)を受け取った。

2  破産会社は、平成二年七月三一日に第一回目の手形不渡りを出し、支払を停止した。

3  破産会社は、被上告人から要請を受けてデュオに対して本件物件の返還を求めた。そして、交渉の結果、平成二年八月三日、右三者の間において、破産会社とデュオは本件物件の転売契約を合意解除し、破産会社は、デュオから受け取っていた前記約束手形を返還し、これと引き換えに本件物件の返還を受けて、これを被上告人に対する本件物件の売買代金債務の弁済に代えて譲渡する旨の合意が成立し、本件物件は、右合意に基づいて、デュオから被上告人の事務所に直送された。

4  破産会社は、平成二年八月二四日、破産の申立てをし、同年九月四日午前一〇時に破産宣告を受け、上告人が破産管財人に就任した。

二  上告人の本件請求は、転売契約の合意解除によりデュオから取り戻した本件物件を被上告人に対する右物件の売買代金債務の代物弁済に供した破産会社の行為(以下「本件代物弁済」という。)が破産法七二条一号、二号、四号に該当するとして、否認権を行使し、被上告人に対し、本件物件の返還に代えてその価額の償還を求めるものである。

原審は、前記事実関係の下において、(1) 破産会社がデュオとの間で本件物件の転売契約を合意解除した行為は、破産会社の一般財産を減少させる行為に当たらず、転売契約の合意解除及び破産会社による占有の回復により本件物件に対する被上告人の先取特権が復活したからといって、被上告人に対して義務がないのに担保を供する結果となるに等しいとはいえない、(2) 動産の買主が売主に対して先取特権の目的物である右動産を売買代金債務の代物弁済に供する行為は、他の破産債権者を害する行為に当たらない、と判断して、上告人の請求を棄却した。

三  しかし、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

前記事実関係によれば、被上告人は、本件物件につき動産売買の先取特権を有していたが、本件物件がデュオに転売されて引き渡されたため、本件物件に対して先取特権を行使し得なくなったところ、その後に支払を停止した破産会社は、本件物件を被上告人に返還する意図の下に、転売契約を合意解除して本件物件を取り戻した上、本件代物弁済を行ったものと認められる。ところで、動産売買の先取特権の目的物が買主から第三取得者に引き渡された後に買主がその所有権及び占有を回復したことにより、売主が右目的物に対して再び先取特権を行使し得ることになるとしても、破産会社が転売契約を合意解除して本件物件を取り戻した行為は、被上告人に対する関係では、法的に不可能であった担保権の行使を可能にするという意味において、実質的には新たな担保権の設定と同視し得るものと解される。そして、本件代物弁済は、本件物件を被上告人に返還する意図の下に、転売契約の合意解除による本件物件の取戻しと一体として行われたものでり、支払停止後に義務なくして設定された担保権の目的物を被担保債権の代物弁済に供する行為に等しいというべきである。なお、被上告人は、本件物件が転売されたことにより、転売代金債権につき先取特権に基づく物上代位権を取得したものと認められるが、物上代位権の行使には法律上、事実上の制約があり、先取特権者が常に他の債権者に優先して物上代位権を行使し得るものとはいえない上、本件代物弁済の時点では本件物件の売買代金債権の弁済期は到来しておらず、被上告人が現実に転売代金債権につき物上代位権を行使し得る余地はなかったと認められるから、本件代物弁済が他の破産債権者を害する行為に当たるかどうかの判断につき右物上代位権の存在が影響を与えるものではない。

以上によれば、破産会社の本件代物弁済は、破産法七二条四号による否認の対象となるものと解するのが相当である。右と異なる原審の前記判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法が結論に影響を及ぼすことは明らかである。この点をいう論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件は、否認権行使に基づき、本件物件の返還に代えてその価額の償還を求める事案であるところ、原審は否認権行使の時点における目的物の価額について認定判断していないため、この点について審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。

よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官遠藤光男 裁判官小野幹雄 裁判官井嶋一友 裁判官藤井正雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例